オーナーインタビュー #04
OWNER INTERVIEW #04
古谷電機工業株式会社
代表取締役 古谷考輝さん
小さなねじが、暮らしを支える シーズンシートは感謝を届ける“サポーター”
プラスチックのねじを、削り出す。半導体を洗浄する装置に組み込まれ、やがてスマートフォンやカメラの中へ入る、小さくても欠かせない部品だ。それを手がけるのが東京・目黒区にある古谷電機工業株式会社。人目に触れない場所で暮らしを支える会社である。
同社が大切にしてきたのは、ものづくりの技術だけではない。仕事を発注してくれるお客様、工場の近隣で暮らす人たち。そのあいだをつなぐ役割こそ、創業から79年続けてこられた土台となっている。その感謝を届ける手立てが、東京ドームで行われる巨人主催試合のシーズンシートだった。
きっかけは2020年。娘の東京ドームで開催されるダンス発表会のチケットを調べていて、その席種の多さに驚いた。「会社で使えるのでは」と温めた構想を、代表就任後、当時社長だった現会長へ提案した。返ってきたのは「うちの規模で運用してメリットを見いだせるのか」という問い。古谷代表は、お客様への招待だけでなく、社員の福利厚生に、近隣への感謝にと幅広く活かす道を伝え、「やってみてもいいんじゃないか」の一言を引き出した。契約席は、左翼ポールの手前から外野スタンドの上へ広がる「スーパーウィング」の2席だ。
この席で、忘れられない一日が生まれた。シーズンシートの担当者から「会心の当たりが出れば、年に数回ここまで飛び込む」と聞いた矢先、当時の巨人の4番打者・岡本和真内野手(現トロント・ブルージェイズ)の打球がまっすぐ向かってきた。周りの観客が頭を抱えてよける中、古谷代表は思わず素手を伸ばす。手のひらにバチンと当たり、一度は落としたが、すぐにボールを掴んだ。人生初のホームランキャッチである。「アドレナリンが出過ぎて、痛みなんて全然。翌日になって、ようやく手が腫れて痛みだしたんです」と笑う。この日の姿はYouTubeのハイライトにも残り、社内ではすっかりネタになっている。
チケットは、お客様、取引先、近隣、社内へと渡る。特徴は、仕事を「お願いする側」にも渡すこと。仕入業者や通常利用店舗にも贈るため、「なんでうちに?」と不思議がられる。「創業79年続けてこられたのは、皆さんのご協力とご理解があってこそ。サプライヤーさんから近隣の方まで、日頃の感謝をお渡ししています」。渡す前には相手の贔屓球団を聞いてから対戦カードを選ぶ気配りも忘れない。スーパーウィングではビュッフェも付けられるので、好きな料理を味わえるのも、もてなすうえで心強い。
社員向けの使い方も工夫する。毎年、合言葉を決めて、声をかけ合う。「引き継ぎ関係にある方を誘って観戦しよう」。製品はバトンのように人から人へ渡り、熟練度や仕事の姿勢は伝わるが、相手の人柄までは知り得ない。ただ観戦をきっかけに新しい会話がそこで生まれ、互いの人となりを知ることができる。また、2年前の永年勤続表彰では、シーズンシート契約者が優先的に抽選に申し込めるドコモラウンジで、サプライズを仕掛けた。表彰される社員本人には内緒で入社当時の恩師を東京ドームへ招いた。デーゲームの午後、試合を眺めながら思い出話と相談事に花が咲いた。
「ご挨拶だけでは、社交辞令以上に伝わることがない」と古谷代表は言う。感謝の言葉を尽くしても、形にして返すのは難しい。だが東京ドームには、熱戦もイベントも、観る人を温かく迎えるスタッフもいる。ここへ足を運んでもらえれば、最高のおもてなしが、自分たちの代わりに「ありがとう」を伝えてくれる。小さくても、なくてはならないねじが機械の要を結ぶように、この2席もまた、古谷電機工業と人とのあいだを静かにつないでいる。東京ドームへ送り出せば、感謝は確かに届く。シーズンシートは、同社にとって頼れるサポーターなのだ。